「狭義の電波ソング」の話と、その王道フォロワーA than_Lilyを聴けという話
や、ニコニコ大百科の
電波ソングとは (デムパソングとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
を読んでもあんまりピンときてない全国1億2700万人の電波ソングファンの皆さん、こんにちは。*1
電波ソングというものを定義することは非常に難しく、そもそも「電波系」、つまり電波を受信しちゃってるような、普通から外れたもの全てを指す言葉ですから、定義することが自己破壊的というか、定義されて枠に入れ込まれてしまった時点でそれは電波ではないのでは?という疑問が生じるかもしれません。
しかし、現在電波ソングという単語が指す曲は例えば(古典に入りつつあるかもしれませんが)あべにゅうぷろじぇくとの『ラブリー☆えんじぇる!!』であったり、MOSAIC.WAVの『ガチャガチャきゅ~っと・ふぃぎゅ@メイト』であったりといった、いわゆる「萌え要素を含んだ電波系ソング」であると言えるでしょう。便宜上これを「狭義の電波ソング」とします。
すき
それに対する「広義の電波ソング」は何でしょうか。例えば福島県立清陵情報高等学校の校歌『宇宙の奥の宇宙まで』やO-Zoneの『Dragostea Din Tei』(恋のマイアヒ)です。
こんな文字通りの電波ソングそうそうない
つまり普通の曲(ずいぶん乱暴な表現ですが、J-POPやロック、ポピュラーなアニメソングまで射程に入っているかなり広い範囲の音楽です)に対する、サブカルチャー・アンダーグラウンド的な音楽全てを含みます。電波ソングはロックであったり、ポップスであったり、テクノであったり、演歌であったりします。(アニメソングにも言えることですが)ジャンルではなく、タグです。
前置きが長くなりましたが、これから述べる「電波ソング」は全て「狭義の電波ソング」を指します。実際「電波ソング」という言葉が使われる時はほとんど黙示的に「狭義の電波ソング」を指しています。*2
ということでよろしくお願いします。
さて、現在の電波ソング界隈はどうかといえば、よく分かりません。先程述べたように萌えソング≒電波ソングと言ってもいい現状、電波ソングとその他の境界線(元々それは主観的判断が大きいため曖昧なのですが)は限りなくなくなっていて、それこそ上で貼ったニコニコ大百科の定義か、あるいは作り手(最近はIOSYSのクリエイターが元気で嬉しいことです)によって判断されているような気もします。
ところで、広義の電波ソングは反メインカルチャー的なものです。しかし今ではこれだけアニメ・萌え趣味がカジュアル・ポピュラー化して実質的にメインカルチャーを侵食しています。ここからは電波ソングらしきものは生まれても本質的に電波ソングになることは難しいのかもしれません。
しかし、決してメインカルチャーになり得ない領域があります。それはエロゲと同人です。
エロゲとはアダルトゲーム、つまり18歳以上はプレイできない成人向けゲームのことです。その性質上、絶対にメインカルチャーになり得ません。なぜならこの日本ではわいせつ物を頒布すると刑法175条で罰せられるからです。現在流通している成人向けコンテンツとわいせつ物の境界は権力によって故意に曖昧にされており、成人向けコンテンツには反社会的なものとして構造的に排除されています。
同人とは同じ趣味や志を持った人の集団のことですが、ここでは同人活動、つまりアマチュアの、特に音楽活動を指します。先述の東方Projectのアレンジで名を上げて商業作品に進出しているIOSYSが有名ですが、膨大な数の同人音楽サークルが活動しています。同人音楽をテーマにした音楽ゲーム*3があるほどです。
というわけで、現在(に限らず、今まで電波ソングとされている曲の大部分はこの2つのどちらかですが)電波ソングを生み出す場となっているのはエロゲと同人です。*4*5
先程述べたように「電波ソング」は定義すること自体が半分自己破壊的なのですが、実のところ電波ソングとして評価されてきた楽曲とはどのようなものでしょうか。
例えば『ラブリー☆えんじぇる!!』『True My Heart』『ガチャガチャきゅ~っと・ふぃぎゅ@メイト』『最強○×計画』『Princess Bride!』『ねぇ…、しようよ!』『チルノのパーフェクトさんすう教室』『ウサテイ』…………
多分僕が人生で初めて見たエロゲのOPです
最近ゲームやったんですが主人公がクッソウザかったです。ラブ生はかわいい
そもそもこの列挙が恣意的と言われてしまえばそれまでですが(先程述べたように電波ソングの定義は主観的です)、私は(狭義の)電波ソングを萌え+コミックソングと定義します。
(萌えもコミックソングもかなり曖昧な概念ですが)「萌え要素」の有無が「狭義の電波ソング」と「広義の電波ソング」を区別し、コミックソング的要素の有無が「狭義の電波ソング」と純粋な「萌えソング」を区別します。
例えばハレ晴レユカイは萌えソングです。もってけ!セーラー服は電波ソングです。コミックソングはfunny的な笑いだけでなくinteresting的な面白さ・ギミック・パロディがある音楽です。この定義でいくとTrue My Heartは微妙なところですが、「きしめん」で有名なように、空耳という聴き方が後天的ですが付与されているので電波ソングに入れてもいいでしょう。そもそもきしめんがなければTrue My Heartがここまでの認知度を得たか微妙なところです。
ave;newの曲でいうとMy Sweet Ladyは萌えソングで、恋はどう?モロ◎波動OK☆方程式!!は電波ソングです。
アンネマリー・ローエンシュタインちゃんバージョンすき
OPの出来がいいからといってゲームが面白いとは限らない
BeatStreamの功績
前置きがどんどん長くなりましたが、いよいよ本題のA than_Lilyです。彼は同人音楽の分野で作詞・作曲を行うクリエイターです。
僕は彼こそが萌え+コミックソングの電波ソングの、王道を往く人物だと考えています。
『星くずこすぷれ☆うぃっち!です!・おめが』
彼のいちばん有名な曲は「俺の妹がこんなに可愛いわけがない。」(以下俺妹)2期第10話OPの『星くずこすぷれ☆うぃっち!です!・おめが』です。俺妹はニコニコ動画で曲を公募しており、他の採用者には私立恵比寿中学に音楽を提供している「さつき が てんこもり」やアニメてーきゅうのOPを手がけた「やしきん」がいます。
この曲は俺妹の劇中劇である魔法少女アニメ「星くず☆うぃっちメルル」のOPという形になっており*6、ある意味電波ソングやお約束をパロディ・リスペクトしたものとなっています。
『和菓子といっしょに立ち上がれっ!』
liqueurprimeのもちこまめがゲストボーカルにアキシブ系サークル「フーリンキャットマーク」の鳴紗を迎えた企画シングル「佐々木姉妹物語」のメイン曲。
典型的な萌え+コミックソングの電波ソングですが、注目すべきは軽快な和風ロックに乗せられて語られる佐々木姉妹のショートストーリーと執拗なまでの言葉遊びでしょう。
ストーリーとダジャレは電波ソングにおいて典型的な手法ですが、ここまで徹底した例はほとんどないのではないでしょうか。
『うぱるぱ!』
「Sugar Bunny」のまめこによるウーパールーパーをテーマにした曲です。
怒涛のセリフパート、ハイテンポでブチ上げるキャラクターの可愛さ、突然突入する『You♡Me きゃっちぼーる』のサビ。
まさに王道を往く電波ソングだと思います。
A than_Lilyの電波ソングは、他にはSOUND VOLTEXの公募曲に採用された『「ここなつ☆」は夢のカタチ』、うぱるぱ!で引用された『You♡Me きゃっちぼーる』、もちこまめ、鳴紗、Endorfin.の藍月なくるの『マルチャ! ~春風に想いを乗せて~』などがあります。
最近では別のサークルに楽曲を提供するだけでなく、曲を提供した歌姫たちを起用して自分のサークル(アトランティックF.)でアルバムをリリースしており、電波ソングにとどまらず、様々な曲風にチャレンジしています。
が、しかし、やはり自分としては電波ソングをもっと書いて欲しい…………。
王道という言葉は電波ソングには似合いませんが、電波ソングの概念が拡散して自然に消滅しかねない今、電波ソングを復活させるのは奇をてらった曲ではなく、彼の作るある意味で素直な曲なのではないでしょうか。
限界オタク僕はA than_Lilyを応援しています。
*1:デムパソングって何? 日本の人口は2018年4月1日時点で1億2653万人らしいです
*2:それは「狭義の電波ソング」が「萌えソング」として、「萌え概念」のカジュアル化と情報化社会の末端への到達に伴って幅広い認知を得た結果、本質的には「電波系」から離脱したことを暗示しているのですが
*4:あともう一つ「キャラクターソング」があります。
↑上のページで語られている「キャラクター的な見せ方をする音楽」=アキバ系はまんまキャラクターソングに当てはまりますし、実際同人音楽で活躍している多くのクリエイターがキャラクターソングの製作に関与しているという現象があります
*5:ボーカロイドの話はいよいよ収拾つかなくなるのでやめますが、近年の同人電波ソングを語る上では絶対に外せないコンピレーションアルバム「プチリズム」「ピコロニーノーツ」をリリースしているかたほとりPはニコニコ動画でのボーカロイド楽曲の投稿で有名になったクリエイターです